
表3.ビタミンの主な効用と欠乏症
A | 視覚の正常化、生長・生殖作用、感染予防に働く.欠乏すると夜盲症を起こす. |
D | カルシウムの吸収と利用、骨の石灰化に働く.欠乏すると骨の軟化を起こす. |
E | 脂質の抗酸化、細胞膜・生体膜の機能維持をする.欠乏すると不妊、神経機能の低下を起こす. |
K | 血液凝固促進をする. 欠乏すると新生児頭骸内出血症を起こす. |
B1 | 糖質の代謝に不可欠.欠乏すると脚気、倦怠感、食欲不振を起こす. |
B2 | ほとんどの栄養素の代謝に関係している. 欠乏すると口内炎、眼球炎を起こす. |
ナイアシン | 体内で最も多いビタミン.欠乏すると皮膚炎、下痢、生長障害を起こす. |
B6 | 神経伝達物質の生成に関係する.欠乏すると皮膚炎、動脈硬化性血管障害を起こす. |
B12 | 神経機能の正常化とヘモグロビン合成をする.欠乏すると悪性貧血や神経障害を起こす. |
葉酸 | 核酸・アミノ酸合成に関係する.特に胎児に重要で、欠乏すると精神神経異常を起こす. |
パントテン酸 | 糖および脂肪酸代謝に関係している. 欠乏すると皮膚炎、副腎障害を起こす. |
C | コラーゲンの生成と保持作用をする. 欠乏すると壊血病を起こす. |
海藻にはどのようなビタミンがどの程度含まれているかを表2に示しました。日常良く食べる5種類の海藻の中では、乾海苔(ほしのり)のビタミンA、K、B12、葉酸、CとカットワカメのKが多いことが分かります。特に乾海苔のビタミン含量が多いことが分かります。Aは光合成色素のβ-カロテンに由来するものです。β-カロテンはクロロフィル、フィコビリタンパク質と共に海苔の色調を構成しています。B12は動物性食品に多く含まれ、陸上植物にはほとんど存在しません。この点、海苔は非常に特殊な食品といえます。葉酸も海苔には多いビタミンです。もともと葉酸は陸上の葉菜類から発見されたために葉酸と呼ばれ、海藻には少ないビタミンです。海苔にこのように多い理由は今のところ不明です。これらのビタミンの主な効用と欠乏症を表3に示しました。本表から、ビタミンによって私たちの体がいかに正常に働くことができるかが分かります。
タンパク質、炭水化物、脂肪、ミネラル、ビタミン、食物繊維が私たちの6大栄養素です。バランスのよい食生活をしていれば、いずれの栄養素も欠乏することはないでしょう。従って、通常の生活をしていれば、栄養状態が悪くて入院をするようなことはめったにありません。しかし、過度のダイエット、厳格な菜食主義、ひどい偏食、胃切除などの他、老化などによる食欲不振や食事の簡素化などによっても、6大栄養素の摂取バランスが崩れます。13種類のビタミンのうち、潜在性ビタミン欠乏症を起こしやすい葉酸とB12について表4に少し詳しく示しました。葉酸は葉菜類に多く含まれることを書きました。ところが、現在の日本人の1日当たり野菜摂取量は304gであり、目標の350gの87%に過ぎません。(平成25年国民健康・栄養調査報告)。野菜をたくさん食べている人は心配ないのですが、野菜不足の人は要注意です。特に妊娠中の方、妊娠の可能性のある方は葉酸の摂取必要量が増えています。胎児の神経系の正常な発育には、妊娠前から妊娠3ヶ月までの葉酸を必要量摂取することが大切とされています。葉酸は動物性食品では、ウシ、ブタ、トリのレバーには豊富に含まれていますので、野菜と上手に組み合わせて食べることがよいでしょう。B12は動物性食品に多いビタミンです。植物性食品には殆ど含まれません。従って、海苔は植物性食品として特別なものと言えます。全形海苔(縦21cm×横19cm、重量は約3g)1枚で1日の必要量がほぼ達成されます。
表4.潜在性ビタミン欠乏症* を起しやすいもの |
葉酸 |
摂取推奨量:240μg (成人1日当たり) |
・但し、妊娠中や妊娠の可能性のある女性は400μg(1日当たり). |
・野菜の摂取不足が欠乏の原因のひとつ. |
・全形海苔1枚中の含量** は36μg. |
ビタミンB12 |
摂取推奨量:2.4 μg(成人1日当たり) |
・但し、厳格な菜食主義者、胃酸分泌の低い人および胃切除者は 要注意. |
・全形海苔1枚中の含量は2.3 μg . |
* 潜在性ビタミン欠乏症 : 病気ではないが、明らかに不足の状態. **全形海苔1枚中の含量は、五訂増補日本食品標準成分表より算出. |
表5.海苔に多いビタミンと他食品との比較
ビタミン | 全形海苔1枚* 分のビタミン含量に相当する他食品の大まかな量 |
A(レチノール当量) | 普通牛乳 280ml 分 |
B12 | 生玉子 5個分 |
C | 温州ミカン 1/6個分 |
K | 納豆 1/3パック分 |
葉酸 | 生玉子 1.5個分 |
*全形海苔1枚の大きさと重さ:21㎝×19㎝、約3g.
海苔に多い5種類のビタミンについて、全形の海苔1枚分の含量は他の食品ではどのくらいに匹敵するかを計算すると、表5に示すように海苔にはビタミンが豊富に含まれていることが分かります。海苔は水溶性のみならず脂溶性ビタミンの摂取にも効果的な食品といえます。
以上、海苔に含まれるビタミンの特徴について述べてきました。和食に欠かせない海藻、中でも海苔は味も香りも上品で淡泊であるにもかかわらず、ビタミンに関してはかなり優れているといえます。ビタミンは先ず食物から補給することが基本です。動物性食品と野菜をバランスよく食べればかなりのビタミンは摂取できますが、食卓に海苔を一品加えることで不足しがちなビタミンを補給し、バラエティーに富んだ豊かな食生活を楽しむようにしたいと思います。
執筆者
天野 秀臣(あまの・ひでおみ)
一般財団法人海苔増殖振興会評議員、三重県保健環境研究所特別顧問、三重大学名誉教授(元三重大学生物資源学部長)、農学博士