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リレーエッセイ 2022・冬
光る藻類 1/2
反射

説明するまでもないが,反射は光が何かの構造の表面ではね返る現象で,月は太陽の光を反射して光っている。藻との名前がつけられた単細胞の藻類であるヒカリモ(黄金色藻類)は,東日本以西の湧き水のある洞窟などに生育しており,場所によっては天然記念物や名所となっている。ヒカリモが光るのは,本来は水中で生活している植物プランクトンであるヒカリモが水面上に浮上して,丸い細胞の中に含まれる1個のお椀形の葉緑体が,その向きによっては反射板のように作用して,光を反射しているのだとされている。実際,自然光下で薄暗い洞窟をのぞき込んでも,水面は黄色っぽい色に見えるだけだが,ストロボで照明して写真を撮ると,黄金色に輝いて見える (図3 a–d)。しかし,なぜ水面上に浮かび,細胞またはその中の葉緑体が同じ向きに配向するのか,また黄金色に輝くのかについては,良くわかっていないらしい。私見では,洞窟のように光が低い角度でしか差し込まない場所では本来の生育場所である水中に到達する光は,水面での光の反射のためさらに弱くなってしまう。水面より上に露出することでより強い光を受けることができるが,もともと単細胞性の鞭毛藻であるので,常時水面上で生活できるわけではない (図3e)。このため,温度や湿度の条件が許す季節に水面上に浮上する生活史型が進化したのではないだろうか。葉緑体の向きがそろって光を鏡のように反射する現象は,より効率的に光を集めるために葉緑体の向きを揃える配位現象と捉えられ,照射された光のうち青や赤の波長帯の光は光合成のために吸収され,一方,反射した光には吸収されなかった黄色の波長帯が多く含まれるため黄金色に見えるのだろう。また,そもそも水中に暮らしている優占種の植物プランクトンが,ある期間,そろって姿を消すとしたら,その植物プランクトンを捕食して暮らしている動物プランクトンなどの動物にとっては,安定して生き延びることが難しくなる。このため,ヒカリモのような生活史型は捕食を免れることにも貢献しているのかもしれない。

図3 黄金色藻ヒカリモの群落 (兵庫県三木市志染:a–d) と細胞の明視野画像 (e) [横山亜紀子氏提供].

図3 黄金色藻ヒカリモの群落 (兵庫県三木市志染:a–d) と細胞の明視野画像 (e) [横山亜紀子氏提供].
構造色(イリデッセンス)

冒頭でも触れたように,海藻にも光っているように見える,あるいは蛍光を発しているとされている種類がある。たとえば紅藻ヒラワツナギソウは海中で青や緑に光っているように見えるし,筆者が最近日本での分布を報告した褐藻クジャクケヤリは青や緑に輝いて見える (図4 a–i)。また,多核緑藻のバロニア類は強い光を受けると本来の色よりは青っぽくみえる。このようにそれらの海藻の本来の色と異なるさまざまな色で輝いているように見える現象はiridescence (イリデッセンス;虹色または玉虫色と訳されている)と呼ばれている。このような現象は鮮やかな色を示す蝶や玉虫の翅や鳥の羽根,シャボン玉や鉱物のオパールなどでみられる現象と共通している。すなわち,そこにそのような色の色素が含まれているわけではなく,表面の微細な構造によって引き起こされる光の干渉で生じ,「構造色」と呼ばれている (図5 a–d)。

図4 さまざまな海藻類でみられる構造色。紅藻ヒラワツナギソウ(a–c);褐藻シワヤハズ (d, e);緑藻タマゴバロニア (f);褐藻クジャクケヤリ (g–i).a, d, hは藻体の下側からの照明で色素による色が,b, c, e, f, g, i は藻体上部からの照明で構造色が観察される.

図4 さまざまな海藻類でみられる構造色。紅藻ヒラワツナギソウ(a–c);褐藻シワヤハズ (d, e);緑藻タマゴバロニア (f);褐藻クジャクケヤリ (g–i).a, d, hは藻体の下側からの照明で色素による色が,b, c, e, f, g, i は藻体上部からの照明で構造色が観察される.

図5 さまざまな生物の色のメカニズム.色素によって生じる陸上植物の葉 (a)と海藻類 (b)の色;構造色によって生じる蝶 (c) とクジャク (d) のはねの色.

図5 さまざまな生物の色のメカニズム.色素によって生じる陸上植物の葉 (a)と海藻類 (b)の色;構造色によって生じる蝶 (c) とクジャク (d) のはねの色.

海藻の構造色については,大きく分けて3つの異なるメカニズムが報告されているが,いずれも光の反射が関わっており,そういう意味では前項と関係が深い (図6)。1つめは紅藻で多く見られるもので,藻体表面の外被層(クチクラ層)が多層構造をしており,光がそれぞれの層を通る際の屈折と,反射による干渉のためにある色が強調されるか,見る角度によってさまざまな色に見えるというものである。具体的にはツノマタ類でみられる構造色はこのタイプである。2つめは藻体表面の細胞のなかに含まれている多くの微細な顆粒によって,藻体にあたった光が屈折したり散乱したりすることで光の干渉がおこって,その結果さまざまな色が生じるというものである。このタイプは褐藻シワヤハズなどのアミジグサ目の多くの種やウガノモク類,また紅藻ヤナギノリ属やフタツガサネ属の種でみられる。3つめはあまり一般的ではないが,多核緑藻のバロニア類などで知られているもので,細胞壁を構成する微細な結晶構造とセルロースの微細繊維の配列によって構造色を生じるというものである。いずれにせよ,図鑑などでしばしば海藻が蛍光を発すると表現されているが,これらは正確には蛍光ではなく構造色である。

図6 海藻類で知られている構造色を生じるメカニズム(多層膜構造タイプ,細胞内微小顆粒タイプ,ミクロフィブリル結晶構造タイプ).

図6 海藻類で知られている構造色を生じるメカニズム(多層膜構造タイプ,細胞内微小顆粒タイプ,ミクロフィブリル結晶構造タイプ).

さまざまな動物や陸上植物が持つ構造色については,カモフラージュ,擬態,異性や訪花昆虫へのアピールによる生殖の効率化,警告などさまざまな機能が推定され,またその検証のための実験が行われている。一方,海藻類の構造色についても,強光下での紫外線などの有害な光からの防御,弱光下での光合成の効率化,カモフラージュなどの説が出されている。しかしそもそも光ること自体には役割はなく,何かの反応や構造を獲得した副産物として引き起こされているという可能性もあり,有力な説はないという状況のようである。筆者は最近報告したクジャクケヤリが青や緑に「光る」しくみとその役割について調べており,海藻の構造色について新たな知見を加えられればと考えている。

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執筆者

川井 浩史(かわい・ひろし)

神戸大学内海域環境教育研究センター特命教授(同元センター長)・名誉教授、理学博士、
日本藻類学会元会長、アジア太平洋藻類学会 (APPA) 元会長、日本藻類学会学術賞 (山田賞) 受賞(2019)

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