空気中での光飽和純光合成速度は、初め水分ロス(WL)の増加と共に高まり、最大値に達した後、水分ロス(WL)の増加に伴って低下しました。5-30℃の範囲で温度を変えて測定すると、温度が高いほど光飽和純光合成度が最大値に達するのが速く、その後の光合成速度の低下は温度が高いほど急速であることが分かりました。これは、温度が高いほど葉状体の乾燥が速く進むことによるものと考えられます。
空気中でのスサビノリの光合成を光の強さと温度を変えて測定してみました。純光合成速度は光が強くなるにつれて高まり、10℃と15℃ではおよそ15 kluxで、20℃と30℃ではおよそ30 kluxで光飽和に達することが分かりました。光飽和純光合成速度は25℃までは温度上昇に伴って高まりましたが、30℃では低下しました。空気中での呼吸速度は10-30℃の範囲では温度上昇に伴ってほぼ直線的に高まり、また、水分ロス(WL)の増加(含水率の低下)に伴って低下しました。
スサビノリの空気中での光飽和純光合成速度は、溶存酸素法で測定した海水中での光飽和純光合成速度と比較してみると、15℃では水中よりおよそ20%高いことが分かりました(図6)。(海水中での光合成は放出されたO2量を測り、吸収されたCO2量に換算しました。)
千葉県富津市下洲漁場の支柱柵と浮流し柵で養殖したスサビノリ葉状体を使って、空気中での光飽和純光合成速度を測定し比較してみました。図7に示すように、時間経過に伴う光合成は、支柱柵で育てた葉状体の方が浮流し柵で育てた葉状体より高く、明瞭な差が見られました。これは、支柱柵と浮流し柵での干出に関する履歴の違いを示しているものと考えられます。
以上のように、スサビノリは海水中だけでなく、潮汐に伴う干出中でも水分ロスがおよそ60%以下(含水率がおよそ40%以上)であれば光合成を行うことが明かになりました。スサビノリだけでなく潮間帯に生育する海藻は、日中に潮がひいて干出した場合には、著しく乾燥しなければ(藻体の水分がある程度保たれていれば)空気中の二酸化炭素(CO2)を吸収して光合成をかなり行っています。
執筆者
有賀 祐勝(あるが・ゆうしょう)
一般財団法人海苔増殖振興会副会長、浅海増殖研究中央協議会前会長、
公益財団法人自然保護助成基金理事、東京水産大学名誉教授、理学博士