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漁場への一番乗り目指すのり師たち
九州の午前6時はまだ夜明け前です。漁港ではエンジンがうなり始めます。東の空がうっすらと明るみを見せ始めた頃から、走り出す船も見えます。
10月16日は、有明海地区の採苗開始日です。福岡、佐賀の両県では海域全体で同時に始まりました。熊本県は、約半分の漁協が始めましたが、あとの半分は、潮時や海況の先の見通しなど考えながら組合員の意見を反映して、25日から27日に順次採苗を始めることになりました。
午前6時のスタートの時間帯は夜明け前で、佐賀県の早津江川の河口に近い組合の港から出港する漁船の撮影に向いましたが、疾走する船影がブレてしまい、うまく撮影出来ません。
気を取り直して、福岡県の浜武(はまたけ)という地区に向かいました。都合良く、漁協の漁場監視船に乗せてもらい早朝の漁場での採苗風景を見ることが出来ました。
漁場では、それぞれの養殖漁家に割り当てられた(組合員によるくじ引きで漁場の割り振りが決ります)漁場に到着すると、小型の箱船を海上に下ろし、前日にカキ殻を入れて丸めて船に積んで置いたのり網を箱船に移し、2~3人が乗り移り割り当てられた漁場に建てた支柱の間に広げて行きます。
作業をするのは、ほとんどの養殖漁家がご夫婦と息子さんで、例年のり漁期だけ働きに来てもらう知り合いの人が加わることもあります。
2m余りの支柱の間に丸めておいたのり網を伸ばしながら広げて行きます。18m余りののり網を2枚続きに伸ばしますので、1列約40m近くを伸ばして、2往復または2.5往復します。2往復を4列張り、2.5往復を5列張りと言いますが、それがのり養殖漁場の1区画で、ひとコマ(一小間)と呼んでいます。したがって、ひとコマにはのり網(1.8m×18m)が8枚から10枚張込まれることになります。
いつも思うことですが、広大な海の中に割り当てられた幾つかの自分の持ちコマを、よく間違えずに見分けられるものだ-ということです。のり摘みが始まりますと、午前3時頃から海に出ます。海に街灯は点いていません。暗闇の中を船の明かりだけで目標を見ながら走るのですが、ちゃんと自分ののり漁場に到着します。以前にそのことが気になって聞いたことがありますが、「間違えることはなかよ。自分なりの目印があるとバイ。」ということでしたが、「むかし間違えたこともあるよ。のりを摘んどるうちに明るうなったところ、隣のコマののりば摘みよったバィ。」と笑っていましたが、実は大部分の漁家がそういう体験をしていると言うことでした。
次に、のり漁場に張込まれたのり網を支柱に吊り下げる作業が待っています。支柱の中ごろに吊り綱が括りつけてありますが、のり網の両端を両側に渡りながらそれぞれの吊り綱に結びつけ、のり網を固定して行きます。
箱船の縁につかまりながら、30枚重ねで海水を吸ったのり網を支柱一つずつに括りつける作業は大変です。箱船から落ちそうになる状態を見かけますが、漁場の深さは4m以上あります。有明海の干満の差は約6mあります。
網を張りこんだ漁場も干潮になると海底の干潟が見えます。このような干満の差が、有明海の支柱漁場で養殖されるのりに十分な日光を与えのりの細胞にたんぱく質を与えアミノ酸を増やして味を良くします。また、有明海ののり漁場は潮の流れが緩やかで、潮の満ち引きによって起こる穏やかな潮流がのりの細胞を薄くして柔らかいのり質に育てます。