産地情報 | 産地リポート
“のり産地の食文化産業遺産"を味わってもらいたい
いろいろな産業が科学、技術の発展と共に出発点の姿が見えなくなり、同時に作り出している製品のあるべき姿が見えなくなっている場合が多いようです。その産業の進化は大いに進めるべきですが、同時に産業が発展して来た過程を振り返ることも大切だと思います。“温故知新"を繰り返すことによって、その産業が生み出す産物のあるべき姿を見出すことにはならないでしょうか。
のり産業の根元である“のり養殖漁業"の姿を見つめる活動は、のり産地の多くの学校などで“地産教育"の一環として取り上げられ、のり漁家が学校に出向き「手抄き体験学習」が行なわれています。
また、かつて日本一ののり産地であった東京では、東京都大田区が「大田区立郷土博物館」を設立し、大森海岸で盛んに行われていたのり養殖の姿を留める器具や資料の数々を展示しています。更に大田区平和の森公園に「大森 海苔のふるさと館」を設立して、のりの手抄き体験をはじめのりに関するいろいろな催しを行なっています。また千葉県富津市は今でものり主産地の一つですが、戦後の京浜工業地帯の進展に伴う「富津埋立記念館」が設立されており、ここでは千葉沿岸ののり養殖の歴史と漁具を見ることが出来ます。
このように、のり産業の発展の歴史を多くの人に知ってもらうことは実に大切な事です。更に一歩進めて、のり作りの原点と言える「手抄きのり」をあえて作り販売し、多くの人に「手抄き、天日干し」のりを味わって頂き、のりの味わいの深さを知って頂くことも大切ではないでしょうか。数年前までは、千葉県船橋市ののり養殖漁業者が「天日干しのり」を作り販売していましたが、作っていたのり養殖漁業者が寄る年並みで生産を止めたようです。
今回佐賀市支所で20人以上の人が携わり一日掛りで作った手抄きのりは約2,000枚です。その中で商品になる手抄きのりは1,400枚に過ぎません。しかし、このような商品作りでは“採算"を考える必要はないのではなかろうかと思います。その“価値"を味わって頂ければよいのです。
のりは古事記の時代から“嗜好品"、“租税対象品"であり“献上品"でした。現在でも、主食でも副食でもなく嗜好食品の部類に区分されています。嗜好食品である以上、そのものの“価値"が重要視されます。
価値を生み出す手抄きのりとして、のり産地の食文化産業遺産として価値を高める地道な活動が全国の産地で広がって行けば、低価格、消費低迷の閉塞感から脱出できる道が見えるのではないか、という気もします。これは、私の思い過ごしでしょうか―。