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産地を追って no.9 終盤を迎えたのり産地~低価格で終漁期早まる~

1 低価格競争で輸入のり増加傾向へ

3月後半から生産状態が減少をたどり始めています。その大きな原因は、入札価格の低下です。バブル経済の崩壊以来、一般加工食品は低コスト大量生産による低価格食品の販売が増え需要が大きく伸びています。

一方、のりは養殖技術が発達してある程度は生産量を維持することは出来ますが、自然の海況の変化を避けることは出来ません。その結果、他の加工食品のように低コスト大量生産で低価格商品を作ることは出来ません。したがって、低価格商品を作るためには、質が低下した原料(のり)を安い価格で買い取り、仕入れ価格を低減する方法しかありません。売行きが悪くなると経営上の問題も出てきますから、納入価格を下げるために、低品質ののり(以下低質品)を安く買い、低価格で納入先を確保する販売競争が始まりました。

その結果、低質品を原料にした商品の出回りが多くなり、商品価値自体の低下につながり、家庭用のりの需要が減少して来ました。低価格販売の影響は、のり需要の約60%を占めるコンビニおにぎり、弁当、回転すしなどの業務用の納入価格にも及び、中級品ののり質にまで及んでいます。

また、生産者の側も、入札価格の低減で減収になり、それをカバーするため売れ筋製品(比較的低品質、低価格ののり製品)の生産枚数を増やすことになります。一方、のり商社の側は、上質品の価格を少しでも安く抑えて、全体の85%以上を占める売れ筋商品の原料を低価格で入札することになりますが、その結果(買い入れ希望が集中するため)売れ筋商品の原料になるのり質の価格も思うような安い入札価格では手に入らなくなってきました。

低質品が高くなり、上質品が低価格になってしまう現実に失望して、のり養殖を止める漁家が増えてきました。手間を掛け、労力を使って「のりの匠(たくみ)」に相応しい上質ののりを少量生産しても、生活が脅かされることになりかねません。表2がその現実を物語っています。

平成14年度(平成14年9月から平成15年8月末)の漁家数は7,126人でしたが、平成23年度(平成23年9月から平成24年8月末)は4,454人で、この10年間で38%も減少しています。

表2.過去10年の経営体、漁家数の推移

「後継者不足」と言われますが、後継者はどこにでもいます。しかし、家業を後継するだけの経済基盤がないということです。経済基盤があれば誰だって「地元で頑張りたい」という気持ちを持っています。のり産地で後継者として活躍している漁家の気持ちは皆同じです。こうした後継者が育つか否かは、のりを購入して戴く消費者の購買行動如何にかかっているともいえます。

安い商品を購入したいのは誰でも同じですが、一方、各産地の産業を維持するために必要な経済基盤を維持しうる環境を支えることも大切です。

かつては、上質なのりを原料にした商品がギフト商品として、お中元、お歳暮時期にはデパートの売上ナンバーワンを維持していましたが、多様な食品の出回りと食生活の多様化に伴う「個性のあるギフト」の波に押されて次第に影が薄れ、今やデパートやスーパーマーケットのギフト商品上位10番以内に入るのは難しい状態です。

なぜこのようなことになったのか、あれこれ想いを巡らして思いつくことは、「のり」に対する消費者の「価値観」が変わってしまったのではないかということです。

のりは「自然食品」で「栄養価に富んだ健康食品」の一つという捉え方をされていました。いまでも年配の方々の中にはそのような捉え方で購入される方も多いようです。バブル経済時期には、のりの価値が高かったこともあり、ギフト商品には欠かせない人気商品として大いに売れました。この時期には流通業界の要望も強く、産地では増産体制を整えるために機械化も進みました。その結果、生産の最盛期には、全国生産枚数は100億枚に達しました。しかし、若年層にとっては多様な食品の出回りで、栄養価に富んだ食品が多くなり、「低価格で味の良い食品」に関心が高まっています。

こうした加工食品の売行きは良く、のりはこれらの食品と競争することは無理です。しかし、それまで安定した販売実績を持っていましたので、販売店にとっては必要な商品ではあります。また、販売する側にとっても店頭から失くすことは出来ませんので、他の一般加工食品と同じような販売感覚で低価格による販売が行われるようになりました。また、販売業者間の価格競争も産地価格を引き下げることになりました。

そうした価格引き下げにもかかわらず、一般加工食品との価格競争はいまだに続いています。それに応じた産地価格が作り出されていることが、今年の生産早期終漁に繋がっていると言えるでしょう。

昨年の平成23年度は生産枚数が77億枚でした。しかし、それまでの3年間は85億枚から90億枚の生産が続き、需要減の消費市場では在庫が多くなっていました。したがって、昨年度の平成23年度に生産枚数が減っても、消費市場にのりがなくなる状態にはなりませんでした。そのため、産地価格は上がることもなかったのです。

しかも、今年度(24年度)の生産枚数は、昨年度をやや上回りそうです。そのため、産地価格は昨年度よりさらに安い価格で推移しています。

しかし、販売競争の渦中にある家庭用のり商品の販売競争は止まるところ知らず、安くて見栄えの良い質の原料を探し続けています。その結果、韓国、中国で生産されているのりが注目され始めています。

のりの輸入は自由化されていません。日本ののり養殖漁業の育成を保護するためです。しかし、一方では国際間の経済交流を少しでも良くするため輸入を行うこととし、輸入量を決めて輸入を行っています。

韓国、中国でも日本とほぼ同じような養殖技術でのり生産が行なわれています。のり1枚のサイズも19cm×21cmの幅でほぼ同じです。しかし、経済基盤には大きな違いがありますから、生産コストが安く、その分安い価格で買うことが出来ます。毎年輸入数量が決められます。それの数量は貿易商社ばかりでなく、生産団体、流通業界団体にも振り分けられます。

日本で売られている外国(韓国)製品
写真.日本で売られている外国(韓国)製品

この割当てられた枚数が輸入されますが、「塩のり」「味付のり」などを日本の業者が輸入国の業者に製造委託して輸入したり、原料を輸入して日本の工場で商品を製造して販売する事が増えています。

右の写真は、福岡県の郊外市のスーパーマーケット、デスカウントストア、ドラッグストアなど6店舗で購入したものです。12種類ありますが、このうち、日本ののり業者が現地委託製造するか又は自社工場で製造したものが、10種類で、韓国の現地銘柄は2種類でした。

韓国の産地情報によると「生産枚数は昨年より増えています。そのため、値段も安くなっています」ということでした。平成24年度ののり輸入割当枚数は、16億7,400万枚ですが、3月25 日現在ですでに「干しのり」「味付のり」「塩のり」などの輸入割当分の内6億4,700万枚に対して輸入申請が出ています。輸入申請の提出のペースが早くなっています。

この傾向は、しばらく続き、日本ののり養殖漁業にとっては今後も大きな影響を与えることになるでしょう。

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