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リレーエッセイ 2018・夏
世界最大の海藻ジャイアントケルプ 2/2/有賀 祐勝
ジャイアントケルプの利用
写真4 ジャイアントケルプ刈取り船。船をバックさせながらエスカレーター状の刈取り機でケルプは上方に運ばれる。(カリフォルニア州沖、1977年)
写真4 ジャイアントケルプ刈取り船。船をバックさせながらエスカレーター状の刈取り機でケルプは上方に運ばれる。(カリフォルニア州沖、1977年)

米国ではジャイアントケルプは食用にされたこともあったようですが、ヨウ素やカリウムその他のミネラルの含有量が多いことからこれら成分の利用が行われ、特にアルギン酸をとるための工業的利用がかなり大規模に行われてきました。カリフォルニア州沿岸には大規模なジャイアントケルプ個体群が自生しており、1970年代にはジャイアントケルプを大量に収穫するための刈取り船が考案され活躍していました。また、収穫した藻体を発酵させてメタンガスをとり、エネルギー源として利用することも小規模ながら実用化されていました。このような大規模利用によって、減少した自生のジャイアントケルプ個体群を補うために養殖の研究も行われ、そのための情報収集を目的として日本のノリ養殖の現場視察に米国の研究者が訪れたことも何度かありました。しかし、米国でのジャイアントケルプの本格的な養殖は実現しませんでした。

日本では、1970年代から1980年代初めにかけての石油危機と関連して代替エネルギー源として海藻からメタンをとろうという研究が行われました。日本沿岸で養殖した海藻から石油に代わるメタンをとろうという研究です。この時、養殖候補種として日本沿岸に自生する海藻の他にジャイアントケルプの検討も行われました。しかし、日本沿岸部の海水温は北海道沿岸を除き夏には21℃以上になるため年間を通しての利用はできないことが明らかになり、候補から外された経緯があります。中国ではアルギン酸をとるための養殖候補種として、米国からジャイアントケルプを取り寄せ、山東省青島沿岸で養殖試験が行われたことがありましたが、やはり高水温の時期には海での生育は無理で、陸上施設内で保存されていました。

外来種の輸入(移植)は、現在ではどこの国でも厳しい制限条件が付けられており、特に外来種が新しい環境に馴染んで繁殖してしまった場合には困難な環境問題を引き起こすことが多いので、例え研究目的であっても慎重な対応が必要不可欠です。日本では北海道の水産研究所の研究者が研究のためにジャイアントケルプを輸入して室内培養での研究が行われたようですが、北海道沿岸は夏でも海水温が高くならないので実験室から藻体が逃げ出して(研究室の排水などに紛れて藻体が海へ流出して)しまうと、定着する可能性があり心配されました。中国では海で養殖試験が行われてジャイアントケルプは育ちましたが、水温の高い時期には生育できないので天然の海域でのジャイアントケルプの定着は確認されなかったとのことです。

写真5 モントレーから東京に運ばれたジャイアントケルプ。グリセリン処理後に屋外で半乾燥状態にし、神戸ポート博会場に運んだ。ジャイアントケルプ1個体の長さを大人の背丈と比較。1981年)
写真5 モントレーから東京に運ばれたジャイアントケルプ。グリセリン処理後に屋外で半乾燥状態にし、神戸ポート博会場に運んだ。ジャイアントケルプ1個体の長さを大人の背丈と比較。1981年)

1981年に神戸で開催されたポートアイランド博覧会では、芙蓉グループパビリオンで米国カリフォルニア州のモントレー沿岸から輸入されたジャイアントケルプが部屋の壁いっぱいに展示されました。この時のジャイアントケルプはモントレー沿岸で採取され、冷凍状態で東京に運ばれたものです。それを解凍し、半乾燥状態にしたものにグリセリン処理を施して長持ちできるようにしました。日本での初めての標本展示だったと思います。この時、解凍した藻体の葉状部を少し分けてもらって、芙蓉グループの方たちとしゃぶしゃぶ風に湯通しして試食してみました。日本のワカメやコンブと違って“ねばねば”(粘質液)の出方が半端でなく、渋みが少々あり、まあまあの味でしたが、ワカメやコンブのように美味しいものではありませんでした。

モントレーベイ水族館その他の海外の水族館でジャイアントケルプの生体展示を見たことがあります。大型水槽の中に実際の海中と同じような形で展示されており、ガラス越しに見るジャイアントケルプの生体は迫力があり、その間を泳ぐ魚などを楽しく眺めることができるようになっていました。日本では、のとじま臨海水族館や葛西臨海水族館では水槽にジャイアントケルプの実物を展示したことがあるそうです。海藻の生体展示はどこの水族館でも苦労されていますが、特にジャイアントケルプのような超大型海藻の生体展示は簡単ではありません。

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執筆者

有賀 祐勝(あるが・ゆうしょう)

一般財団法人海苔増殖振興会副会長、浅海増殖研究中央協議会会長、公益財団法人自然保護助成基金理事長、東京水産大学名誉教授、理学博士

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